おばあちゃんの転院

帰り際、おもむろに立ち上がり窓辺に移動した。駐車場を見下ろして大きく手を降る。車椅子でトイレもひとりで行けるし、杖を使ってゆっくり歩けるようにもなった。
5月の緊急入院からお世話になった市民病院を退院、おばあちゃんは今月別の施設へ移った。「リハビリ施設」と聞いていたけど、行ってみたら随分イメージが違う。車椅子に乗った老人たちがひしめき、痴呆の進んだ多くの人が口を開けて天を仰いでいた。話し声が賑やかだった病院と違って入所者同士の会話もほとんどない。

おばあちゃんは「早くこんなとこ出たいわえ」と嘆いていた。おばあちゃんは日頃から「痴呆」や「寝たきり」を恐れているから間近でみるのがつらいのだ。入院以降、来客や飯の支度など日常生活の気がかりがなくなって若干ぼんやりしたが、相変わらず口は達者である。敬老の日の贈り物で、ガラスドームに入ったプリザーブドフラワーを渡すと喜んでくれた。

おばあちゃんが暮らす母屋と両親が再婚後に建てた一軒家。隣り合っているから毎日顔を合わせるものの、ひとりの時間がほとんど。退所して自宅に帰るためには、ひとりで日常生活を送れる体力が必要になる。入所契約は11月までと聞いた。しばらくは頻繁な静岡通いが続きそうだけど、おばあちゃんと話す機会が増えて孫は嬉しくもある。


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