その敗北は敗北ですらない

机にティッシュの箱が置かれた。涙は腕で拭える程度だったので大丈夫と言うと「いえ、私が」とカウンセラーが目を押さえた。「仕事中に泣くのは初めてで、だめですね」と体裁悪そうにしていた。力が及ばなかったと小さな呟きが聞こえた。

今日の様子には感情が見えないとこちらを見、表情を曇らせた。無感覚ではないが今は気持ちの置き場がわからない。他人であれどカウンセラーが感じた僅かな変調が今の姿なのだろう。一緒に築いた一年とこれからも続く月日。個人の敗北に他人が涙を流してくれたならそれは敗北ではない。


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