菊地成孔と犬の漫才師(『歌舞伎町で働くすべての姫君へ捧ぐ』曲紹介文字起こし)

村上春樹の最新作が話題になる中デビュー作の話をしたい。ある晩ラジオ局のディスクジョッキーから主人公「僕」の家に生電話がかかってくる。僕、は騒がしいお喋りを疎ましく思い「犬の漫才師」と揶揄する。そのディスクジョッキーが後半の見せ場をつくる。何度読んでも良いシーンだ。

前回の「菊地成孔の粋な夜電波」の菊地成孔は犬の漫才師を思い出させた。歌舞伎町で働く姫君たちに捧げた曲紹介は不埒で純度が高く、ラジオを聞いて嗚咽する日が来るなんて思わなかった。Potcastでカットされていた全文はコメント欄で


8 comments on “菊地成孔と犬の漫才師(『歌舞伎町で働くすべての姫君へ捧ぐ』曲紹介文字起こし)Add yours →

  1. ■第101回(2013年4月21日放送)『菊地成孔のミュージックプレゼント』より
    ※追記 今ならここで聞くことができます。曲紹介は16:33〜

    親愛なる君たちへ。
    いつかバレるかもしれない。もうバレてるかも。

    あの同伴も指名も一回もしたことないのに、毎回違う名前名乗る人、
    チョー面白いけどチョー怪しいよね!
    だって名刺もケータイも持ってないし、仕事も毎回違うこと言うしさ。
    シャンパンしか飲まないし、ちょっとヤバい人なのかも!

    とか、なんとか。
    噂されていることは、まあ・・・知らないでもないよ。

    だから、バレてしまう前にこっそり音楽を捧げたい。ま、これからもバレないようにうまくやるけど。
    君たち全員にだ。

    あ、ちなみにエリア外の皆さんには申し訳ないけど、コレ歌舞伎町だけですね。
    他の街では行ったことないからさ。

    いつも感謝してる。
    君たちの仕事が、誘惑し、狂わせることばっかりじゃなく、
    すっかり癒してくれて、一緒に笑ってくれて、ばっちり元気づけてくれるということを。
    そして、君たちの客の中に、俺も含まれてるってことに。

    君たちが世間では誤解を受けてること、
    君たちがひとりひとりみんな全然違う悩みや欲望やスキルを持っていて、
    毎日何かと必死に戦ってることを俺は知ってる。大体、40年くらい前からね。

    オナニーすら知らなかった頃から、
    誰かを好きになることさえ知らなかった頃から、店を手伝ってたんだ。
    その頃は “キャバクラ” なんて名前は、無かったけど。

    君たちをレディのように、或いは仲間のように扱うべきだということを、
    俺は、俺だけが知っている秘密のアティチュードとして、
    君たちが産まれる前に銚子の観音様から授かってるんだ。

    仕事の愚痴は言わない。あらゆる暴力はふるわない。
    よく呑んで、よく唄って、そしていつでも面白くあること。

    世界は、かなり過酷だ。
    君たちが夕方にカラコンを入れてる間にも、
    俺が喉を渇かせてシャンパンのことで頭の中がいっぱいになっている間にも、
    地獄を経験している人々がいる。

    仕事の愚痴は言わない。あらゆる暴力はふるわない。
    よく呑んで、よく唄って、そしていつでも面白おかしくあること。
    それが、君たちと生きる歓びだね。

    誰もがうまくいくわけじゃない。ずっと続けられる仕事じゃない。
    震災の翌日にライブが中止になって、君たちと過ごしたあの金曜の夜、
    俺と笑い転げてくれた子はもうひとりも店から居なくなった。
    だけどあの日、落ち込んだり、恐がっているそぶりを見せたり、
    やけくそになっている子は、ひとりも居なかった。

    「今日は呑むのはよそう」と言っても、誰も咎めなかった・・・驚いたよ。
    たくさん握手をして、たくさんハグをして、
    もし君たちが読めと言えば俺はきっと聖書だって読んだろう。

    あ、そうそうこないだの「宇宙の話が怖い子」、
    勝手に番組で話してしまって悪かった、ていうかまあ脅かして悪かったよ。
    「君の中に小さい宇宙があって、その中に歌舞伎町もあって、キャバクラもいっぱいあって、
    西口でギター弾いて唄ってる人もいて・・・」って言ったら、
    「えーやだぁ! そん中にひょっとして操り人形いるぅ?」って言ったんで、
    「え? いるよ当然!」って俺は言ってしまった。
    「うわぁもうワタシ、宇宙の次に嫌いなのが操り人形なんだよね!」って言ってたよね。

    操り人形を恐れることはないよ。君は誰の操り人形でもない。

    どうせ邦楽ダウンロードばっかりだろうから、今日は洋楽を捧げるよ。
    歌詞もね、こんな感じだ。

    知らないヤツが隣で寝てる 頭はズキズキ 部屋はキラキラ
    プールにフラミンゴがいるし 部屋中ミニバーのにおいがしてる
    DJはガッツリ潰れてて バービー人形はバーベキューの網に乗っかってる

    え! ひょっとしてこれキスマーク!?
    夕べの写真がネットに出てる やっべ! ま いっか!
    記憶は飛んでるけど最高だったはず まったく!

    金曜の夜 テーブルで踊って呑みまくり キス した かも!?
    でも全然覚えてない 先週の金曜の夜

    カードは限度額超えでバーを追い出され 表通りに繰り出した金曜の夜 ってやつ
    真っ暗な公園を裸で走って 3Pしちゃった 金曜の夜
    法律 やぶったかも!?

    「もうやめとけ」って言うけどさ でも次の金曜日も また同じことしようよ
    今度の金曜も また同じこと やらかそうぜ
    こないだの金曜の夜 テーブルで踊って 呑みまくり キスも しちゃったかも

    カードを使い切ってバーを追い出され 表通りに繰り出した 金曜の夜 ってやつ
    真っ暗な公園を裸で走って 3Pしちゃった 金曜の夜
    法律 やぶっちゃったかも!? 反省はしてるんだけどさ

    次の金曜も また 同じことしようよ
    今度の金曜も また 一緒に やらかそうよ

    いつもありがとう。愛してる。
    金の介在した愛だけど。金が介在しない愛なんて無人島にすらない。

    今夜の最後の曲を歌舞伎町で働いている全ての姫君たちに捧げます。
    テレビドラマ『glee3』で出演者たちが歌ったKaty Perryの『Last Friday Night』。



  2. 風の歌を聴けはおれも好きだね。
    あと、龍のブルーも、あれさ、なにが良いっておれは、連絡の取れなくなった女性におれは今でも変わってないからって、いつでも連絡待ってるって締め括ってんだよね。あいつ、いまでも変わってないのかな?彗星の如く作家は現れるよね?

  3. >ひろ氏
    両氏共に処女作だね。
    なんの因果か、手を伸ばしたら届く位置に『限りなく透明に近いブルー』があったからめくってみた。
    最後(追伸のようなあとがき)は本編のような激しさはなくて静かだね。
    そうだ今日、本屋で『限りなく〜』が目について表紙のデザインが代わっていてびっくりした。
    新装版だって。あの横顔がいいのに。

    そして『風の歌を聴け』は友人宅にあって手元に無く、買い直そうとしたらそれだけが無かった。
    なんの因果か。
    世界で読まれている村上春樹だけど『風の歌を〜』だけは翻訳許可を出していないらしい。
    作家としてテーマとか文体が定まる前だったから・・・だと思うけど、
    全く大好きな作品だから日本語の読める日本人でよかったと思った。
    犬の漫才師は最高だ。

  4. たしかに、風歌のDJを思い出させる菊地君のDJだね。
    文章長かったから読まずにぼんやりとコメントしてた。orz

  5. ※追伸
    今ならここで聞くことができます。曲紹介は16:33〜
    菊地氏本人の語り口も魅力ですのでリンクを貼ります。

  6. >ひろ氏
    菊地君の気障さが古き良きディスクジョッキーを思わせるんだよね。
    真っ昼間から文字起こしをしたけど、名文だから苦にならなかった。

  7. 風の歌は翻訳されてないなんて、知らなかったよ。
    読みたいファンは多いだろうにね。日本人でよかった!!

  8. >ちんみん氏
    どこで読んだのかと思ってなんとなくこれっぽいなと思って
    『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(インタビュー集)をめくっていたら、
    外国人記者のプロローグにあったよ。

    『風の歌を聴け(Hear the Wind Sing)』は英語に翻訳されているが、著者の希望によって、日本以外ではこの翻訳書を入手することは不可能になっている。
    (文庫版P203)

    外国で沢山翻訳されているけど刊行順に読めるのは母国ファンだけで、
    特に初期なんかは刊行順に読めないのは不憫だと思ってしまうんだけどね。

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