Archive for the 'ただいま失業中' Category

ただいま失業中〜第16回 振り出しにもどる

A社の内定を辞退しあとはB社との採用スケジュールを進めるだけ。面接も実務試験もうまくやれる気がする。もし交渉がまとまらず時給が上がらなくても働く気持ちは固まったから大丈夫。2週間待っても連絡がこないのでB社に進捗を聞いた。 担当者は採用が取り止めになったと言った。時給は据え置きで構わないと言ってみたが派遣先企業は求人自体を撤回してしまったらしい。想定外の返答に唖然とした。彼は終始淡々と話し別のことを考えながら口だけ動かしているみたいだった。こんなこともあるのか。自分の鼓動が聞こえた。


ただいま失業中〜第15回 初めての内定

B社からの連絡を待つ間も就業開始を急ぐA社の担当者から数日おきに電話がきた。両社の結果が出揃うまで返事を待ってもらうことになっていたが毎回働くか働かないかの意思確認があった。B社の進捗がないと伝えるたびに落胆の声を出した。 先日面接した企業は自分を採用したいと言っているらしい。職種の違う二つの仕事を前にしたら、やれる仕事よりやりたい仕事を選ぶ気持ちが固まった。時間をかけても結論は変わらないと思い、A社の採用を辞退した。前職の退職経緯を知った上で採用としてくれた深い理解に感謝しながら。


ただいま失業中〜第14回 ほのかな安堵の日々

B社は大手の派遣会社でオフィスは高層階にあった。ガラス張りの窓に都庁が迫る。担当者は細身で眼鏡をかけた30才くらいの男性だった。彼はこちらの職務経歴に納得した様子で、派遣先企業に時給アップの交渉をしてみると明るい顔をした。 フルタイムで働いても月収は前職の2/3以下になる。でもフリーペーパーの仕事は是非やりたいと思った。動きがあったら連絡すると言われたが彼の態度を見ればほとんど内定した気分だ。街で冊子を見掛けると(あの中で働くのか)とほのかな安堵に包まれる。だが気がかりも残されていた。


ただいま失業中〜第13回 やれる仕事とやりたい仕事

待ち合わせ場所にきたA社の担当者は少し年上で大柄の女性だった。喫茶店の狭いテーブルで履歴書と職務経歴書を間に挟み、たっぷり1時間半話す。前職を辞めた経緯も隠さずに話した。その日から一週間後に派遣先の企業で面接が行われた。 面接には人事担当者3名と部課長の計5名が登場した。帰り道、同席したA社の担当者が「好感触ですね」と声を弾ませたけれど心はしんと静まっていた。実はA社とB社の職種は全く違う。やれる仕事とやりたい仕事とも言い換えられる。A社の方が条件は良さそう、でもB社に期待する気持ち。


ただいま失業中〜第12回 この世のスピード

転職サイトはシステムメンテナンス中だった。滅多に見ない抑うつ的な情報を見てやろうと思ったのにタイミングが悪い。メンテナンスの文言の下に派遣専門サイトのバナーがありクリックした。良さそうな仕事を2件選んで応募ボタンを押すと翌日にはそれぞれの派遣会社から連絡が来た。 朝、A社から電話があり昼過ぎに面談を行うことになった。数時間後ではないか。世の中こんなにスピーディーだったかと軽く唖然としつつも急いで書類を用意、待ち合わせ場所に向かった。一方のB社が指定してきた面談日は二週間先だった。


ただいま失業中〜第11回 働かないストレス

失業給付は来月で終わるからその前に働きぐちを見つける必要がある。しかし就職活動の困難さや面倒臭さを思い出せば気が重く、オフィスカジュアルかーと思ってはさらに気が重くなっていた。考えるほどに労働意欲は減退するのに気は焦る。 自ら引き起こしたパニックに苦しんで家族や友人を困惑させていた時、友人がふと「働かないストレスってあるよ」と言って、何かが解けた。雇用形態に固執するのをやめた。こんな自分でいたくないから働く、これが動機なのだから。働くストレスはある、でも働かないストレスだってある。


ただいま失業中〜第10回 減りゆく減りゆく

約4週間ごとにハローワークに行き失業給付金の手続きをする。到着するとまず就職活動の記録を書き込んだ書類を提出箱に入れる。しばらくすると名前が呼ばれて職員と簡単な面談をする。「すぐに働ける状態で就職活動をしているのに、仕事がみつからない」に該当するかの確認のための。 ぎゅうぎゅうに並んだパイプ椅子に小さく座る。当初嫌悪していたこの状況も何とも思わなくなった。給付をいつまで受けられるのかと初老の職員にたずねると、彼は面倒くさそうに書類の小さな数字を指差した。当たり前に順調に減っていた。


ただいま失業中〜第9回 この心を満たすもの

昨年末に応募した会社の採用面接を受けた。最初にいってしまうと面接後に辞退した。なにか失敗したわけでもないのに帰り道の気分は重かった。面接の間じゅう無視できない違和感があったのに、無理して相づちを打ち続けた自分に醒めた。 正社員登用までの期間が長いこととその間の待遇の問題。残業の多さもうかがえた。あとは雇い主の印象か。任意で提出した企画書が一切触れられなかったのは残念だった。でもだめだだめだと言っていてはこの先が不安になるばかりだ。なにが一番欲しいのか。心を満たす何かはなんだろう。


ただいま失業中〜第8回 あの建物を見るたびに

年末のテレビ番組は一年を振り返るのに忙しい。オリンピックの開催決定は2013年のビッグニュースで、ジャパンコールと直後の歓喜の姿を何度も見た。新しくなる国立競技場は自転車ロードレーサーのヘルメットみたいなデザインだと思う。 毎日国立競技場の脇を歩いていた。競技場の空撮がかつての通勤路を映し出した。見慣れたビルや公園がある。揚々と歩いた転職したての春、足元をふらつかせ泣いて帰った夏の夜。秋、冬、明るい気持ちで歩いた日を思い出せない。一年分の感情はまだ、胸にずっしりと重くて時々うごめく。


ただいま失業中〜第7回 よこしまな気持ち

普段はラフな服装で出歩いているくせにハローワークに行くときは仕事用の服を選んでしまう。そこが仕事と結びついた場所だからなのか、失業者に見られたくない見栄なのか。久しぶりに袖を通したイタリア製のコートが全く似合っていない。 セミナー参加者は30人ほど、グループワークでは意見を述べ合った。教員のように堂々と話す人、コンシェルジュのように穏やかに話す人。ひとりひとりからはっきりと社会性がにじみ出ている。働く意思と能力を持った人たちの前でポイント稼ぎというよこしまな気持ちは置き場がなかった。